とりい動物クリニック 静岡県富士市の動物病院

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ズーノーシス(人畜共通感染症)って何ですか?

皆さんは「ズーノーシス」という言葉をご存知でしょうか?別名「人畜共通感染症」や「ペット感染症」といわれ、最近 テレビなどでもたびたび取り上げられるようになってきました。そもそもズーノーシスとは何なのか、なぜ最近注目を集めているのか、そしてどう対処したらよ いのかについてお話したいと思います。

ズーノーシス

ズーノーシスとは「動物から人間に感染する、または感染すると思われる疾患」を指します。犬の病気は犬にしかかからないというわけではありません。ペット の飼育頭数の増加や多様化、さらには物流が発達した影響でいろんな感染症も日本に入ってきました。感染の方法はいろいろあります。病気のもとをもっている 動物にかまれることによって感染するものもあれば、空気感染するものまであります。また、感染源となる動物は全く症状を出していない(無症状)のに、人間 に感染すると重大な症状を引き起こすもの中には死亡するものもあり、病気によって多種多様です。

このズーノーシスと呼ばれる病気、実は非常に数が多いのです。しかも病原体の性質が変化することによって人にも影響を及ぼすようになってしまったものもあ るので、その数は増えているといわれています。去年東南アジアを中心に猛威をふるった「SARS(重症呼吸器症候群)」や「鳥インフルエンザ」などもズー ノーシスのひとつです。そんなわけですべてを網羅すると、誰も読んでいただけなくなってしまうので…今回は身近なところで犬猫に関連したものを中心にして みたいと思います。

代表的なズーノーシス

・狂犬病
ほぼすべての哺乳類に感染するウイルス感染症です。狂犬病ウイルスに感染した動物の唾液の中にウイルスが含まれており、その動物にかまれる事によって感染 します。1〜3週間ほどの潜伏期(この間は無症状)の後、発熱や食欲がなくなるなどの症状がでてきます。進行するとけいれんや麻痺症状をおこします。水を 飲む際にのどがけいれんしてうまく飲めなくなることから「恐水症」といわれる行動がみられることがあり、発症した場合、最終的には100%の確率で死亡し ます。犬や猫でもほぼ似たような症状がでます。

発症した場合の治療法はありません。人間の場合、発症前に発症予防のためのワクチン接種をすることがあります。

この病気に対して「狂犬病予防法」という法律が作られています。この中で、犬の飼主さんに対して犬の登録義務と1年に1回の狂犬病予防接種を受けさせる義 務(生後91日以降の犬)が記されています。この法律によって日本では40年近く狂犬病の発生がない、世界的にも数少ない清浄国となっています。しかし、 近隣の国々には狂犬病は存在し、日本国内にも入ってくる可能性は充分にありますので、決して他人事ではないということに気をつけていかなければなりませ ん。

写真1 狂犬病ワクチン(微生物化学研究所製)


写真2 犬の鑑札とステッカー (注:これは富士市のものです。お住まいの市区町村によりデザイン等が異なる場合があります。)


写真3 狂犬病注射済票 (注射した年度によって色が変わります)

・エキノコックス症
エキノコックス症は何らかの形でエキノコックスと呼ばれる条虫(サナダムシの仲間)の卵を体内に取り入れることによって肝臓などで増殖をし、放置されると9割以上が死亡するという大変恐ろしい病気で、最近注目をされているものです。

通常エキノコックスは、卵をネズミなどが摂取し、ネズミの肝臓で幼虫に成長します。そのネズミを犬の仲間(犬、キタキツネなど)が捕食すると、犬の腸管で 成虫になり、糞中に卵を排泄することになります。人間への感染は、自然界で湧き水などを飲んだ際に、その中に含まれた卵を摂取することによって感染すると されています。人間から人間に感染することはありません。

人間の場合、卵がかえって幼虫になり肝臓に寄生をして増殖をします。それがさらに進行していくと、脳や腎臓、肺などにも転移することがあるようです。症状 が表れるまでには10年ほどかかるといわれており、感染が確認された場合は感染している部分の摘出をしないといけなくなり、これ以外に有効な治療法は今現 在はありません。

犬の症状はほとんどないか、軽い下痢が表れる程度で、エキノコックスによって死亡する例はほとんどありません。

この病気はもともと北海道でみられたものでしたが、近年本州でもエキノコックスが発見されたこともあり、「北海道のみの病気」ではなくなってきています。しかも、人間やペットの往来も盛んなため、注意が必要な病気です。

病気の予防として、犬に対してきちんとした駆虫を徹底させることが重要です。飲み薬なのでそれほど大きな負担にはなりません。人間に対しては、むやみに湧き水などは飲まないようにすることなどが挙げられます。

写真4 代表的な駆虫薬(錠剤、注射液)

・レプトスピラ症
レプトスピラと呼ばれる細菌の中で病原性をもっているものがいくつかあり、それらに感染することにより症状を示します。病原性のレプトスピラは人間をはじ め、ほとんどすべての哺乳類に対して感染することができ、一度感染してしまうとその動物の多くが保菌者(感染した個体そのものは無症状なのだが、レプトス ピラの排泄をし続ける状態)となり尿などから病原体を排泄します。

人間や犬は、主にげっ歯類(ハムスターなどを含めたネズミなど)の尿と直接接触したり、尿によって汚染された水や土などから口や皮膚を通して感染します。

人間や犬の症状として、急性の発熱や黄疸、腎機能低下などが見られ、特に犬の場合は発症してから2〜4日で死亡することもあります。
治療は抗生物質の投与と腎不全がある場合は点滴などを行います。
幸い犬に対してはワクチンが作られていますので、げっ歯類との接触がある場合、もしくは自然に多く触れる機会のある犬に対してはレプトスピラ症に対応しているワクチン接種を薦めています。当院では8種混合ワクチンでレプトスピラ症の予防ができます。

写真5 レプトスピラ症に対応したワクチンの一例 その他各社が取り扱っています

・回虫症(トキソカラ症)
回虫と呼ばれるミミズの形に似た寄生虫が人間の体内に寄生した病気のことをいいます。犬や猫では、腸の中で寄生をしていて下痢などを起こすことがありま す。まれに寄生している虫の数が多い場合などには、虫そのものを吐いてしまうこともあります。しかし、はっきりとした症状は出さないことのほうが多く、検 便をした際に回虫の卵や回虫そのものが発見されることが(特に子犬や子猫)よくあります。人間の体内に回虫が寄生した場合、成虫になることができないた め、幼虫のまま体の中を動き回ります。これは、本来回虫が成長するためには、人間に寄生することは不向きなのですが、たとえば、誤って回虫の卵を取り込ん でしまった場合などは回虫症になりうるわけです。具体的には眼などに移動することもあり、その場合視力を失うこともあります。

人間に感染する場合は、主に犬や猫などの糞の中に含まれている回虫の卵を口から取り込む例が多いです。ノラネコが公園の砂場などで回虫の卵の含まれた排便 をし、そこで子供が遊んで感染することがあるようです。ですから、よく手洗いをすることが重要なのです。

おうちで飼われている動物が回虫に感染されているかどうかは検便をすることでわかりますし、寄生していた場合には適切に駆虫(飲み薬または注射、超小型犬や猫などでは皮膚に直接つける薬もあります)することができます。

・トキソプラズマ症
トキソプラズマという原虫(いわゆる「虫」よりも構造が原始的な生物で、その多くが寄生することにより生活、繁殖をしています)により、人間の脳などに影響を及ぼす病気です。特に妊娠している方にとっては大変重要な病気です。

この病気は羊、ヤギ、豚、牛などに感染したトキソプラズマのオーシストといわれるものを食肉として取り込むなどして、人間に感染します。この他に猫がこの トキソプラズマを保有していることがあり、感染している猫の糞便から人間の体内に取り込まれることもあります。トキソプラズマに感染した猫は、健康な猫と ほとんど見分けがつかず、よほど衰弱した場合などを除いては無症状です。感染している猫に対しての治療を適切に行うことによりトキソプラズマを排除するこ とが可能です。

トキソプラズマは妊婦さんの体内から胎児へ移行することが知られており、脳などに障害を起こす可能性があるため、妊娠検査のなかにも含まれています。おう ちで猫を飼われている際には、その猫ちゃんがトキソプラズマに対する抗体を持っているかどうかを調べておいたほうがよいと思われます。猫のトキソプラズマ 抗体検査は血液をとり、その抗体価を調べる検査です。当院でも検査できますが外注検査となるため1週間ほど日数がかかります。

・猫ひっかき病
バルトネラと呼ばれる細菌により人間に症状を及ぼす感染症です。ノミと大変密接な関係があり、特にノミが寄生している猫などに引っかかれたりかまれたりし たおよそ2週間後に、リンパ節という組織が炎症を起こします。そのほかの症状としては、頭痛や発熱などといった風邪に似た症状が起こります。
この病気への対策はなんといっても、ノミの寄生をさせないことです。定期的なノミ予防が必要となります。あとは、できるだけノミのいる環境を作らないことになると思います。

写真6 滴下式ノミ駆除剤の一例 (製剤によっては他にも駆除できる虫があります。詳しくは動物病院でご相談ください。)

まだまだありますズーノーシス

ペット動物に関係しているズーノーシスはまだいろいろあるのですが、その他の病気につきまして大まかに紹介いたします。


写真7 疥癬 (猫の皮膚から検出したものです)

ズーノーシス対策は誰でもできる

上記のズーノーシスといわれる病気で重要なことは、「オーナーさんひとりひとりが注意することで感染する危険性は極力避けられる」ということです。普段生活するうえで、特に注意していただきたいこと五箇条を以下に記します。

動物と人間が健康に暮らすための五箇条
  1. 寄生虫の予防をしましょう
  2. ワクチンはきちんと接種しましょう
  3. 動物に触れた後は手をしっかり洗いましょう
  4. 動物と口移しで食事を与えるのはやめましょう
  5. 動物と一緒に寝るのもやめましょう

みなさんも実践されることをおすすめします。

もっとズーノーシスをお知りになりたい方へ

ズーノーシスのなかには、日常的なものではないにしても生命にも影響を及ぼすような感染症がいっぱいあります。
今回のコラムをご覧になって、少しでも動物と人間がともに健康でいられる方法について何かを感じていただけたら幸いです。そして、ズーノーシスに関心を 持って「もっとよく知りたい!」と思われた方には、ズーノーシス(人畜共通感染症)の詳しいサイトがありますので、そちらもご参照ください。

また、多少ですが当院にもオーナーさん向けのパンフレットをご用意しておりますので、ご希望の方はスタッフまでお問い合わせください。

写真8 ズーノーシスに関するオーナーさん向けのリーフレット

ズーノーシス関連のホームページ

厚生労働省健康局 http://www.forth.go.jp/mhlw/animal
バイエルメディカル ズーノーシスコントロールのページ  http://www.bayer-pet.jp/pet/zoonosis/

※その他各種検索サイトで検索しますと非常に多くの情報が得られます。