はじめに
以前に、食道内に釣り針が刺さり、内視鏡を用いて摘出した報告をさせていただきました。
内視鏡を用いての食道内異物摘出だったらかなりの確率で摘出できたのですが・・・
今回はあまりにも対象となる異物が強敵だったのです。
今回の患者さま
ミニチュア・ダックスフントの1歳の男の子です。
頚部の食道内に釣り針が刺さっているとのことで来院されました。
その時のレントゲン写真がこちらです。
この針は、釣りをされる方にはよく知られた針のようなのですが イカを釣る為の針とのことです。
無数に付いた針の束が2個、それぞれが固いワイヤーで連なっています。
口腔外にはそのワイヤーの断端が飛び出している状態です。
対処方法
まずは内視鏡で摘出可能かどうかを調べる為に、全身麻酔下で内視鏡検査を行いました。
一般的には食道に対する外科手術は合併症が多いため余り、実施したくない問題があります。
- 縫合した傷口が開きやすい。
- 縫合した傷口から内容物が漏れる可能性がある。
- 縫合した部分の狭窄が起こりやすい。(手術した部分が細くなってしまい、食べ物が通過しにくくなる。)
これらのリスクを避ける為に、内視鏡での摘出が勧められます。
内視鏡検査
内視鏡で確認したところ、針は粘膜面に完全に刺さっており、奥にあるもう一つの針の束は見えるのですが、内視鏡下でこれを把持して摘出することは、ほぼ不可能と判断しました。
それでも、食道切開手術したくない為に・・・
このように致しました。
胃切開を行い、内視鏡を胃の噴門部より挿入して反対側から取り出そうという判断を下しました。
胃切開後の内視鏡検査
写真は釣り針を反対側から観察した状況です。
この方向であれば、牽引する方向に対して、針が抜ける力がかかりますから、抵抗なく除去できるのではないかと・・・
左の写真では食べ物のかすが付着していましたので、それを取り除きました。

こちらが取り除いた後の状態です。
この状態で、把持力の強い鉗子を用いて摘出すれば・・・
と
大きな期待を持って、処置にあたりました。
結果は、失敗に終わりました。
針が強力に刺さっている為に、引っ張ったとことで微動だにしないのです。
これでは、強引に牽引しても、重篤な食道の裂開を招ききれないと判断し
ワンちゃんのオーナ様には大変申し訳なく思うのですが、食道切開を提示致しました。
食道切開手術
頚部の食道を切開し針の摘出手術を行っている写真です。
手術を行っていますと
「これを内視鏡で摘出しよう」
とは、最初から甘い判断だったと痛感せざるを得ない状態でした。
既に食道穿孔を数カ所で起こしており、切開しても用意に取り出せる状態ではありませんでした。
注意深く、穿孔している針の先端を切断し摘出を行いました。
このようにしないと、とても摘出できるものではなかったのです。
手術後の食道の状態
手術後、胃ろう設置の際に食道の縫合部位の確認を行いました。
縫合部分が12時の位置と思われます。(粘膜の不正な部分がある為)
食道の軸に対して平行に赤い線が見られるので、食道炎も重度と判断しました。
摘出後のケアー
- 胃ろうの設置(手術した食道に負担をかけない為に、食道を休ませる目的で胃に食事を入れる為のチューブを設置致しましました。)
- 粘膜保護材の投与(スクラルファートという薬剤を毎日口から投与しました。)
- 静脈点滴/抗生物質の投与
10日経過して再度内視鏡検査を行いました。
手術した部位に食道狭窄がないかどうかの確認です。
内視鏡検査(2度目)
10日後の食道の様子は、炎症も消失し粘膜面の縫合部分も経過は悪くない様子です。
同時に、胃ろうの摘出も行いました。
その後の経過
手術後、しばらくは不安定な状態が続いておりましたが、
現在は普段の元気さに戻り、調子良く日々を過ごしているようです。
食道内に存在したこのような異物は、内視鏡での摘出は困難を極めます。
検査段階で、摘出不可能と判断された場合は胃切開なども行わず直ちに食道切開手術を行えばよかったと痛感致しました。
余分に胃切開した分だけ、ワンちゃんには痛い思いをさせてしまったと反省しております。
でも、なんでこんな異物を飲み込んでしまったのでしょうかね。
異物を加えて遊んでいるところを見つけた場合に
飼い主様が危険と判断して、とっさに取り上げようとするのが常ですが、
ワンちゃんの立場としては、
オーナーさんの突然の(殺気立った)行動に・・・(すぐに取り上げないといけないと急いでしまうのは当然の行為ではあるのですが。)
びっくりしたり
また防御反応の一つとして
飲み込んでしまうのかと思います。
危険な異物を置かないように注意するのが最も大切ではありますが、
仮に、危険な異物を加えて遊んでいた際の行動の取り方が非常に難しいと考えました。