とりい動物クリニック 静岡県富士市の動物病院

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快食快便してますか?-便秘といえども侮るべからず-

突然ですが、おたくのワンちゃんネコちゃんの排便を観察していますか?便を観察することによって健康状態がわかることがあります。
その中で今回は「便秘」についてお話しようと思います。

便秘とは…

便 秘の定義として「排便がない、回数が少ないあるいは困難であるもの」をいい、また便秘が慢性的で治りにくく、かつ大腸全体に便がひどく詰まっているものを 「便秘症」と呼んでいます。一般的に、「排便の姿勢はするものの便が出ない」ことで飼主様が気付かれます。便秘が起こす要因としては、

  1. 食事(食事の量、回数、食事の内容など)
  2. 環境(異物を食べる可能性、猫の場合はトイレに行きやすいかどうか)
  3. 普段の排便習慣
  4. 運動の有無
  5. お薬を飲んでいるかどうか
  6. 腰部や骨盤等に外傷を受けた経歴があるか

などがあります。ただし、似たようなしぐさをするものの中には排尿に関わる病気や下痢症などもあります(注1)。これらについて飼主様からのお話や検査などにより診断をしていきます。

さて、このワンちゃん(写真1)ですが、「3〜4日ずっと便が出ていない」ということで診察を受けられました。

(写真1)

おなかを触って腸を確認してみると、かなり硬い便がたくさん詰まっているのがわかりました。レントゲン写真でも太い便が大腸全体にたまっているのが確認でき ます。下腹部の白く筒状に見えるのが便です(写真2)。腸全体が拡張していることもありますので、「巨大結腸症」(注2)といわれる状態も引き起こしてい ます。

(写真2)

浣腸をした上で肛門からバリウム液を入れて腸の状態を観察する造影検査をしたところ、写真1と同じように結腸が拡張していることが確認できました(写真3)。
飼い主様の希望により、まずたまっている便を浣腸により取り除き、再発しないように飲み薬で「緩下剤」(注3)を処方しました。

(写真3)

その後1ヶ月ほど調子よく排便が見られていたのですが、症状の再発が見られました。そのつどたまっている便を取り除き飲み薬によってなんとか維持はしていたのですが、症状の改善が見られなかったので、飼い主様の了承を得て外科的処置を行うことになりました。

このワンちゃんに行う外科的処置は「部分的結腸切除術」といい、一般に大腸といわれる部分のすべてもしくはその一部を切除し、直腸(肛門のほぼ直前の腸)に つなぎ合わせるというものです。これは拡張してしまっている結腸(大腸)があるために慢性的な便秘症がおこっていると考えられ、結腸を取り除くことによっ て便をためておく部分をなくしてしまうことが目的となります。

全身麻酔をかけて切開をし、今回問題となっている結腸の確認をしました。するとやはり結腸全体の拡張が見られました。結腸は「?」の字を描いたような形状をしており、その部分を摘出することとしました(写真4)。盲腸の後ろからの腸管のほとんどを切除します。
ここでしばらく腸の運動状態をみると、結腸の途中まで正しい 蠕動 ( ぜんどう ) 運動(腸が収縮しながら消化物を送り出す運動)が確認されましたがそれ以降で動きが止まっているかのような状態になっていました(写真5)。


(写真4) 


(写真5)

このことから腸全体が常に拡張しているのではなさそうです。また収縮しない部分では血液の循環が悪いわけでもなく、腸の収縮を妨害しているなんらかの異物 (腫瘍や腸の中で通過に支障をきたすような物)もありませんでした。このため問題のある部分では何らかの神経的な問題があるのでは…と考えられました。写 真4の切開線のところで腸を分離し、腸の内容物がおなかの中に入ってしまわないように細心の注意をしながら、切除した腸の断端を再びつなぎ合わせておなか を閉じました(写真6)。

(写真6)

手術後24〜48時間は何も食べることができなくなるので、点滴を中心とした治療が必要になります。
その後は抗生物質と流動食を少しずつ食べさせてワンちゃんの栄養補給をしました。その間にきちんと排便があるかどうかを見ることは非常に重要なことなので、忘れずに観察をしました。
また摘出した腸を病理組織学検査(注4)に出したところ、特に問題は認められなかったようです。ただ、このワンちゃんの場合尾椎が断裂していることがレントゲン写真上で明らかになっていたので(写真7)、その影響もあるのではないかと考えられます(注5)。

(写真7)

もともとこのワンちゃんは尻尾の形状が普通のダックスフンドとは異なり、あまり尻尾自体を振らない子だったようですが、特にここ最近で何か外傷を受けたこともなく普通に生活をしていたようです。
もしかしたらこの症状が突発的に起こったものかもしれないと考えています。

手術後数日で自分から食事をとるようになり、排便も確認されています。ただし、原因が完全に判明していない部分もあるため、再発などの可能性が全くないとは断定はできません。
そのため、今後の排便状態などを慎重に観察する必要がありそうです。

今回は犬では比較的珍しい例ではありますが、排便に関するトラブルは意外に多いものです。
きちんとした便が出ているかどうか一度チェックしてみてはいかがでしょうか?

注釈

注1:
排便姿勢をしているのもかかわらず出てこないからといって、即それが便秘というわけではありません。
下痢の場合では、「しぶり」といわれる状態になると便秘と似た排便姿勢をすることがあります。これは、便意(腸の違和感)はあるのですが便そのものは大腸にほとんどないため、あたかも便が出ないような印象を与えます。
また、排便姿勢と排尿姿勢が似ていますので(特にメスの場合)、膀胱炎や尿道閉塞などでも似た格好をすると考えられます。
いずれの場合も長い間ほうって置くことは禁物です。
注2:巨大結腸症について
読んで字のごとく「巨大」なったに「結腸」の病態を示し、正常な結腸の2〜3倍の太さに拡張してしまい排便困難(便秘など)をきたす疾患です。
巨大結腸症になった動物はほとんどが便秘症状となりますが、便秘だからといって必ずしも巨大結腸症というわけではありません。
ネコ(比較的高齢に多い)で多く見られる疾患で、犬でも希に見られます。ネコなどでは先天的に発生するものもあります。腸運動をつかさどる神経―筋機能の欠如や、排便行為を行う上で物理的に困難を生じる場合(交通事故などによる骨盤の骨折など)に発症します。
しかし、発症の原因については未だに解明されていない点も多い疾患です。症状としては、排便困難は言うまでもありませんが、これに伴い嘔吐や、下痢、食欲不振などを示し、重症な場合は死に至ることもありうるものです。
一般におなかの触診や問診、レントゲン検査等で診断を行います。
治療法は、緩下剤の服用や食事の変更などによる内科的治療や、腸管部分切除などによる外科的治療が行われますが、根本的な治療が難しく慢性的な経過を取りやすい非常に厄介な疾患です。
注3:緩下剤
瀉下剤などともいいます。停滞している便をいろいろな方法で体内から排出させる作用のあるものをいいます。これらにはいくつかの種類があり、
  1. 膨張性下剤:繊維質を多く含み、便の量を増すことで腸に刺激を与える
  2. 浸潤性下剤:消化管内の水分と脂質のバランスを調和して便を排出させるもの
  3. 粘滑性下剤:腸と便の間をコーティングして、便の通過を容易にさせるもの
  4. 高張性下剤:便と体内との浸透圧バランスの差を利用した下剤
  5. 刺激性下剤:腸の粘膜からの分泌と腸蠕動運動を刺激して排便を促す
に大別されます。基本的に1つの種類のみで使用するよりも、いくつかの薬剤を併用します。
また、これらのくすりは効果に個体差を生じるものもあるので、排便の状態や量、回数などの飼主様からの情報や検査結果を元にして組み合わせを決めます。
注4:病理組織学検査
患者さんの組織の一部をサンプルとして細胞レベルでの病変があるか否かを調べる検査です。
一般に手術や検査などで得られた組織を顕微鏡で観察できるくらい薄くスライスします。
それを固定(余分な油分などを取り除き染色液が入りやすいようにする)し、染色したもの観察して診断を下します。当院では、この病理組織学検査は検体を検査 機関に送り病理診断医の先生に診ていただいております。その診断結果をもとに症状と照らし合わせて治療を行っております。
注5:
哺乳類などの脊椎動物には「脊椎」といわれるからだの中心を支える骨の集まりがあります。
一般にいう「首の骨」や「背骨」といわれるものです。脊椎は、頸椎→胸椎→腰椎→仙椎→尾椎の順にならんでいます。
脊椎の中心を脊髄といわれる重要な神経が存在し、ここから枝分かれをしながら全身に行き届いています。
尾椎とは「尻尾の骨」と解釈できます。尾椎のほとんどには脊髄は通っていませんが骨盤に近い部分では傷害をうけると神経的なダメージを生じることがあります。

Written by KM Vet