初めに
現在の日本のペット動物の飼育頭数は犬がおよそ1000万頭あまり、猫がおよそ800万頭と言われています。
しかもこの数は3軒のうち1軒で動物を飼育しているということになるようです。
しかしながら行政で管理出来る動物が犬に限られておりしかも行政への届け出を行っている犬の飼い主がすべてではなく、加えて野良犬、野良猫の問題も有り、その数は不明確な予測数値としてあげられているにすぎません。
以上の事情からもペット動物と人との結びつきはますます強く長いものとなっていくことと考えられます。
今回、本HPの運営管理を行っている“にゃんとワンだふる”さんよりペット動物に対して日常的に行われている去勢/避妊手術についてコラムを作成しては如何なものか?とアドバイスを頂きました。
この問題はペット動物として飼育する上で非常に大きな問題を持っています。また獣医師によりその見解は微妙に異なります。
今回は私としての意見を述べていきたいと思います。 また同じペットとはいえ犬と猫とはまったく異なる動物ですのでそれぞれ別に記述します。今回は猫に関して記述してみます。
文章が見やすくなるようにQ&A式に簡潔にまとめてみます。これらの質問にお答えしていきます。
質問
- ぶっちゃけた話。 ペットに去勢/避妊手術は必要ですか?
- 去勢/避妊手術が必要な理由は何ですか?
- 去勢/避妊手術後のメリットを教えてください。
- 去勢/避妊手術後のデメリットを教えてください。
- 手術するなら何歳位でするのがいいですか〜?
- どのように手術するのですか〜?手術までの段取り/手術方法を知りた〜い。
- 入院はどのくらい必要ですか〜?
- 費用はどのくらいかかりますか〜?
- 避妊/去勢手術をしたときに役所から補助金がおりるって聞いたんですけど・・・
- 退院したらどんなことに注意したらいいですか〜?糸抜きって有りますか〜?
- そうはいってもやっぱり子供を産ませてあげたいんですけど・・・
猫の去勢/避妊手術
Q1. ぶっちゃけた話。 ペットに去勢/避妊手術は必要ですか?
A1. 去勢/避妊とも必要だと思います。ちなみに去勢とは雄の猫に対して行うもので、避妊とは雌の猫に対して行うものをいいます。
A2. ズバリ、繁殖をコントロールする為です。(子供を作らせないようにします。)そして屋内で飼い易くする為です。しかし繁殖を行う予定の場合は去勢/避妊とも行うことが出来ません。
ちなみに猫の飼育法は屋内での飼育が勧められます。屋外での飼育法は推奨されません。それは近隣住宅からのクレーム、伝染病の感染、猫同士のけんかによ る外傷、交通事故などによる外傷の危険性、原因不明で行方不明等の問題が有ります。また屋外飼育により繁殖のコントロールが困難となり野良猫の発生が後を 絶ちません。
屋内で飼育すると上記の問題からは解放され猫はとっても健康的で長生きしてくれます。しかし猫は室内に閉じ込められる為に人間の予測を超えた大変なスト レス、社会性の損失を招きます。それらのストレスを自宅内で発散させる為に猫の飼育に適した環境設定が必要となります。環境設定とは飼育頭数、排泄場所、 爪とぎ場所、パトロールコースの作成、ジャングルジムなど。屋内で飼育する猫についてはまた他の機会に記述したいと思います。
A3. 早期に手術しますと屋内で飼育し易くなります。特に雄は性格がおだやかになります。生殖器が無くなりますのでそれらに起因する病気の発生が無くなります。 屋外で受ける可能性のある病気や外傷等が無くなるのでその分寿命も延びます。初回の発情前に避妊手術すると乳腺腫瘍の発生が圧倒的に抑えられると言う報告 も有ります。(この件は犬と同様で、猫でも当てはまるのです。)
A4. とっ ても太り易くなります。統計的には手術前の30%の増体が起こるようです。(私のところの患者さんでもほとんどの猫ちゃんが当てはまります。)肥満が加速 しますと肥満に起因する疾病が発生し易くなります。(ペット版生活習慣病かな?)勿論ですが手術後は子供を作ることが不可能となります。
A5. 正確な時期については議論の最中です。(6ヶ月齢だったり8ヶ月齢だったり・・・)しかし1歳になる前にしてしまうのがお勧めです。
議論の理由としては雄の場合はペニスの十分な成熟前に精巣をとってしまうことによりFLUTD(猫下部尿路疾患)の発生比率が高まると予測されるからです。 猫は初回の発情前に避妊した方が乳腺腫瘍の発生が抑えられるので早い方がいいのでは。という訳で雄なら8ヶ月以降、雌なら6ヶ月以降が良いかと思います。 ちなみに猫の乳腺腫瘍は大半が悪性なので注意が必要です。
Q6. どのように手術するのですか〜?手術までの段取り/手術方法を知りた〜い。
A6. 手術は基本的には予約制となります。また予防接種(3種混合ワクチン以上)が必要です。ノミなどが寄生していれば事前に駆除します。
予約をしていただいた手術日に来院していただきます。通常は手術前日から入院するケース(自宅で猫ちゃんの絶食絶水の処置が必要なくなります。)と手術 当日に来院していただくケースがあります。(前日の夜中から自宅で猫ちゃんを絶食絶水にしていただきます。)
来院しましたらこちらで去勢/避妊の手術に関して簡単な説明をさせていただき、お預かりさせていただきます。
去勢手術は全身麻酔下で睾丸を1カ所1cm程度切開し、同部位から左右の精巣2個を取り出す手術です。縫合は通常1針か2針です。全身麻酔に関しては手 術前の検診、血液検査でリスクを調べます。麻酔時間は毛刈り、消毒の時間等を含めても30分程度の短時間なものです。
避妊手術は全身麻酔下で腹部を正中切開します。おへその下を3〜4cm程度切開し、同部位から左右の卵巣そして子宮を取り出す手術です。縫合は通常4針 〜5針です。全身麻酔に関しては手術前の検診、血液検査でリスクを調べます。麻酔時間は毛刈り、消毒の時間を含めて60分程度になります。
手術終了後に“手術無事終了の”連絡をさせていただきます。
A7. 通常は1〜2泊となります。ただし手術後の体調が優れない場合、諸事情がある場合等では更に入院をする場合も有ります。
A8. 費用に関してはHP上での記載が不可能ですので電話かメールにてお問い合わせ願います。病院によって手術費用が異なります。異なる理由としては入院期間の 相違、麻酔法の相違(注射麻酔だったりガス麻酔だったり)、技術料の設定の相違、手術に必要なスタッフの数、手術に必要な道具の数、手術前検査の項目の相 違。等により手術にかかるコストが施設により異なります。
当クリニックでは去勢/避妊手術に関しては例外を除き手術に関する費用は一括で計算しています。(個別の計算を避け避妊手術に関する費用はパックで○○○○○円。という感じです。)
Q9. 避妊/去勢手術をしたときに役所から補助金がおりるって聞いたんですけど・・・
A9. 市役所、町役場からの補助金の制度はそれぞれの機関によって異なります。ちなみに私のクリニックのある富士市では補助金の制度がございます。(2005年2月末日現在)
望まれない形で生まれてきた野良猫が後を経ちません。そんな背景もあり必死に野良猫を保護しそれらの猫に自費で去勢/避妊手術を受けさせてくださる方が いらっしゃります。こういった補助金制度を持つ行政機関はまだ一部です。私としてはもっと増えてくれるといいと思っているのですが・・・
Q10. 退院したらどんなことに注意したらいいですか〜?糸抜きって有りますか〜?
A10. 退院後は体調が優れない場合が有りますので、自宅内で安静にさせてあげてください。加えて元気食欲ともに良く観察する必要が有ります。もし体調が優れない場合は再度、診察を行う必要が有るかもしれません。
中には縫合部位を大変気にする猫ちゃんがいます。必要に応じてエリザベスカラーを装着します。(患部をなめて傷口を開けないように予防します。)
患部を化膿させない為のお薬(たいていは抗生物質、消炎剤)を必ず飲ませるようにしてください。お薬は粉でも錠剤でも場合によっては液体にすることも可 能です。希望の剤形を申し出ていただければこちらで作製することが出来ます。また特定の抗生物質がお腹に合わず嘔吐や下痢をしてしまう猫ちゃんもいますの で、そのような症状が見られましたらお薬の変更もします。とにかく何か不都合が有りましたら何でも申し出ていただくのが一番です。
退院後は通常は糸抜きの日までは診察が有りません。しかし患部の状態や猫ちゃんの体調によって診察が必要となる場合も有ります。指定された来院日にお越し下さい。
通常の糸抜きは術後2週間で行います。糸抜きのときは専用のはさみで糸だけを抜き去りますので数分という短時間で痛みもなく終了します。
Q11. そうはいってもやっぱり子供を産ませてあげたいんですけど・・・
A11. 一旦、去勢/避妊手術を行いますとそのあとは一生子供を作ることが出来ません。生殖器を取り去ってしまいますので繁殖不可能となります。繁殖の道を残した いケースの雌猫ちゃんにインプラント療法が有ります。(ホルモン剤のはいったプラスチック上の棒を頚部の皮下に埋め込みます。)避妊効果は1年とも2年と もいいます。インプラントを抜き去ることにより再度、発情回帰が可能をいわれています。
インプラント療法につきましては是か否かが大変論議されていますが、私の持論としてはあまりお勧めしないのが現状です。例外を除きますと手術による避妊 が勧められますので、繁殖を検討される場合は予定の繁殖が終了後に避妊されたら良いかを思います。(繁殖と繁殖の間にインプラントで発情抑制をかけるのは お勧めしません。)
さいごに
今回、猫の去勢/避妊手術に関して私なりの意見を記述させていただきました。また飼い主様より良く頂くご質問を挙げ、それについて返答させていただきました。
このコラムの最後に、やはり猫の中性化(去勢/避妊手術)は必要であり、獣医師としてもこの啓蒙活動はもっと広めていかねばならないと感じました。また行政機関もこの問題を大きく取り上げていただく必要が大いに有ると感じました。
華やかなペットブームの裏には常に不要ペットの回収、処分が日常的に行われ何の罪もない動物たちが今も犠牲となり続けています。それらを具体的に書くとあまりに露骨すぎてしまうその現状を本当はすべて皆様に知っていただきたい・・・
明るい表舞台の裏には常に暗い影が有ります、そのなかで動物の為に必死になって保護し新たな収容先を探す真の動物愛好家の姿に心うたれます。
私が獣医師としてこの大きな問題にたいして今後、何が出来るのか非常に悩んでいます。
今回は去勢/避妊手術について私の意見を記述しましたが、最後はシビアなお話もはいりました。しかしこういった現状も有ってやはり責任持った飼育方法が要求させる現在であります。動物を最後まで責任もって見てあげられるのが飼い主であります。
猫の紹介
病院で飼育している“はじめ”くん。
現在7歳、雑種猫、元男の子、体重5〜6kg?です。院長が岡山県の動物病院で勤務中に飼育し始めました。
この子は1歳になる前に去勢手術を行いました。「去勢後に性格はとっても丸くなった。」と院長の弁です。
実物はもっとかわいいです。
この子は事故にあって保護されたまま病院の居候になっています。
かっちゃんです。
現在ほぼ3歳、雑種猫、元男の子、体重ほぼ5kg。
この子も去勢手術を行いました。
性格は元々マイペースなので手術後もあまり変わりないかなあ。
交通事故で腰椎骨折した影響で今でもふらふらと歩きます。食べ過ぎるとすぐ太るのが欠点でしょうか?
以前におしっこが出なくなり最終的に会陰尿道ろう設置手術を受けました。その影響か時折膀胱炎を起こしてしまいます。(しかし最近は調子いいです。)