とりい動物クリニック 静岡県富士市の動物病院

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犬の去勢/避妊手術について(私の考え)

初めに

前回、猫の避妊去勢手術に関して記述いたしました。今回は犬の去勢/避妊手術に関する当院での対応と私自身の犬の中性化(去勢/避妊すること)に対する考えを述べさせていただきたいと思います。
犬の話を別にしたのは資料が多量になってしまうことと、去勢/避妊手術の背景が猫に比べて微妙に異なると考えたからです。
前置きが長くなってしまうと退屈なので早速本題に移ります。

前回同様、文章が見やすくなるようにQ&A式に簡潔にまとめてみます。


質問

  1. ワンコに去勢/避妊手術は必要ですか?その理由は?
  2. 去勢/避妊手術後のメリットを教えてください。
  3. 去勢/避妊手術後のデメリットを教えてください。
  4. 手術するなら何歳位でするのがいいですか〜?
  5. どのように手術するのですか〜?手術までの段取り/手術方法を知りた〜い。
  6. 入院はどのくらい必要ですか〜?
  7. 費用はどのくらいかかりますか〜?
  8. 避妊/去勢手術をしたときに役所から補助金がおりるって聞いたんですけど・・・
  9. 退院したらどんなことに注意したらいいですか〜?糸抜きって有りますか〜?
  10. 去勢/避妊手術すると無駄吠えも治りますか?

犬の去勢/避妊手術

Q1. ワンコに去勢/避妊手術は必要ですか?その理由は?

A1. ワンコにも去勢/避妊が必要だと考えます。理由はこの後で述べるメリット、デメリットの項にも記載はしますが簡潔に述べますと、疾病の予防と繁殖のコントロールにあります。


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Q2. 去勢/避妊手術のメリットを教えてください?

A2. ズバリ、病気の予防につながることです。

雄の場合は

  1. 精巣腫瘍の予防。
  2. 前立腺肥大症の予防。
  3. 会陰ヘルニアの予防。
  4. 肛門周囲腺腫の予防があります。
  5. もちろん繁殖の抑制効果は周知ですし、雄特有の気性の荒さも抑制されます。

まず(1)精巣腫瘍の予防は睾丸そのものが腫瘍となることを予防することとなります。去勢手術で睾丸=精巣を摘出しますので摘出後は同部位が腫瘍を形成す る可能性はまず無くなります。精巣腫瘍の症状としては陰嚢内もしくは陰嚢外の睾丸が腫大する。腫瘍の影響によるホルモン異常症状。例えば皮膚異常、雌性 化、貧血症状、他臓器への転移が挙げられます。
(2)前立腺肥大の予防も精巣を取り去ることにより可能となります。前立腺の活動は精巣からのホルモンの影響を強く受けておりますので去勢により前立腺の活動を休止させてしまいます。前立腺肥大症の症状としては血尿の排泄、排尿回数の増加、下腹部の痛み等が挙げられます。
(3) 会陰ヘルニアとは会陰部の筋肉が破れて肛門と陰嚢のあいだところから腸の脱出、膀胱の脱出が起こることです。それにより、排尿障害、排便障害を起こしま す。去勢することによりそれらの病気の発生が低く抑えられますし会陰ヘルニアを手術で治療した場合は100%の症例で去勢手術を同時に行います。
(4) 肛門周囲腺腫とは肛門周囲場合によってはしっぽの付け根、ペニスにも形成されることのある腫瘍です。最初は小さな腫瘤ですが進行することにより巨大化、加 えて多数の腫瘤が形成されそれが自壊、糞便が付着し大変不潔となります。時には悪性腫瘍であることもあり腹腔内臓器への転移でも知られます。この腫瘍も去 勢を行うことにより発生の抑制が可能となります。

雌の場合は

  1. 子宮蓄膿症の予防。
  2. 乳腺腫瘤の発生の予防。
  3. 卵巣、子宮、膣に形成される腫瘍の予防。
  4. 発情の抑制。
  5. もちろん繁殖の抑制も挙げられます。

まず(1)子宮蓄膿症は発情後に起こるホルモンのアンバランスにより子宮内に感染が起こり、子宮内に膿が貯留した状態の病気です。中高齢のワンコに発生し 易く大変深刻な病気であります。早期に発見すれば治癒可能ですが、発見が遅れると腹腔内で蓄膿が破裂し大変深刻な腹膜炎を起こし場合によっては死に至りま す。一般的には通常の避妊手術(卵巣子宮摘出術)で予防出来ますが大変例外的ですが摘出した子宮断端に膿が貯留する断端部膿瘍を起こす場合もあります。
(2)乳腺腫瘍は文字通り乳腺に腫瘍ができることです。悪く言えば乳がんです。犬の乳腺腫瘤は半数以上が良性とされていますが勿論その残りは悪性とされます。
初回の発情を迎える(大抵は1歳未満の)ワンコに対して避妊手術を行うとその発生が極端に低く抑えられます。
(3) 卵巣、子宮、膣に形成される腫瘍の予防。卵巣に形成される腫瘍はしばしば巨大化し、腹腔内をかなり占有するまで気づかずに経過することもあります。避妊す ることにより(卵巣と子宮の一部を除く)腫瘍を形成する臓器そのものが無くなりますからそのリスクはほとんど無くなると言って良いかと思います。
(4)発情の抑制は(平均で)1年に2回やってくる発情徴候加えて発情前期に認められる外陰部からの出血を気にする必要が無くなります。その都度多量の出血に困ったり、雄犬との性行為を気にしなくて良くなります。


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Q3. 去勢/避妊手術後のデメリットを教えてください。

A3. これは猫のコラムでも記載しましたが犬でも同様のことが当てはまり大変太り易くなります。体重をきちんとキープしないと肥満が加速しペット版生活習慣病が 発生し易くなります。糖尿病、肝疾患、腎疾患、心疾患、関節疾患などが挙げられます。大変稀なケースですが雌犬の場合はエストロゲン反応性尿失禁がありま す。分かり易く言いますと避妊したあとで尿漏れを発生する症例がごく稀にあります。治療は不足したホルモンを補うような治療、尿道括約筋の緊張を高めるよ うな投薬が必要となる場合があります。


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Q4. 手術するなら何歳位でするのがいいですか〜?

A4. 正確な時期については議論の最中です。(6ヶ月齢だったり8ヶ月齢だったり・・・)しかし1歳になる前にしてしまうのがお勧めです。

ただし犬には室内で飼育可能な小型犬、超小型犬から人と比べても同等とも言える超大型犬までいます。生成熟する時期、初回発情を迎える時期もワンコの種類によってかなり変化します。初回発情が遅いと予測される大型犬は少し遅めに行った方がよろしいかと思います。


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Q5. どのように手術するのですか〜?手術までの段取り/手術方法を知りた〜い。

A5. 手術は基本的には予約制となります。また(出来る限り)ワクチン接種(5種以上混合ワクチン)をお願いしています。ノミなどが寄生していれば事前に駆除します。

予約をしていただいた手術日の午前中に来院していただきます。通常は手術前日から入院するケース(自宅でワンコの絶食絶水の処置が必要なくなります。)と 手術当日の午前中に来院していただくケースがあります。(前日の夜中から自宅でワンコを絶食絶水にしていただきます。)

来院しましたらこちらで去勢/避妊の手術に関して簡単な説明をさせていただき、お預かりさせていただきます。

去勢手術は気管挿管をした後イソフルレン(ガス麻酔)による全身麻酔下で睾丸とペニスの間を1カ所2〜3cm程度切開(切開創はワンコの体格のより変わり ます。)、同部位から左右の精巣2個を取り出す手術です。猫と比較して出血量が多いので止血能力の優れた高周波メスを使用して手術しています。切開した患 部の縫合は通常3〜4針程度です。全身麻酔に関しては手術前の検診、血液検査でリスクを調べます。麻酔時間は毛刈り、消毒の時間等を含めても30分程度の 短時間なものです。

避妊手術も気管挿管をした後イ ソフルレン(ガス麻酔)による全身麻酔下で腹部を正中切開します。お臍の真下を6〜7cm程度切開し、同部位から左右の卵巣そして子宮を取り出す手術で す。猫に比較して出血量が多いので止血能力の優れた高周波メスを用いて手術します。切開した患部の縫合は通常7針〜8針です。全身麻酔に関しては手術前の 検診、血液検査でリスクを調べます。麻酔時間は毛刈り、消毒の時間を含めて60分程度になります。
(猫と異なり犬は犬種によって体重幅が非常に大きくなります。よって上記で記載した数字はあくまで中型犬を目安にしたものであり大型犬、超大型犬ではその数字が更に大きくなります。)
手術終了後に“手術無事終了の”連絡をさせていただきます。
術後は1日入院でその間鎮痛剤を使った治療、抗生物質の投与を行います。手術翌日の体調に問題がなければ退院となります。


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Q6. 入院はどのくらい必要ですか〜?

A6. 通常は1〜2泊となります。ただし手術後の体調が優れない場合、諸事情がある場合等では更に入院を延長させていただく場合も有ります。


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Q7. 費用はどのくらいかかりますか〜?

A7. 費用に関してはHP上での記載が不可能ですので電話かメールにてお問い合わせ願います。病院によって手術費用が異なります。異なる理由としては入院期間の 相違、麻酔法の相違(注射麻酔だったりガス麻酔だったり)、技術料の設定の相違、手術に必要なスタッフの数、手術に必要な道具の数、手術前検査の項目の相 違。等により手術にかかるコストが施設により異なります。

当クリニックでは去勢/避妊手術に関しては例外を除き手術に関する費用は一括で計算しています。(個別の計算を避け避妊手術に関する費用はパックで○○○○○円。という感じです。)

猫と異なり犬の場合は極小犬から超大型犬と体重差が非常に大きいです。手術に使用する麻酔の量、手術の所要時間、手術自体の難易度が大きく異なります。当 然小型のワンちゃんの方が短時間、小さな切開創で手術可能ですが、超大型のワンちゃんともなりますと長時間、大きな切開創、小型のワンちゃんよりも多くの スタッフを必要としますし大型犬用の入院スペースも必要となります。

当院では15kgまでの体重のワンちゃんを基準とし、それを超える体重のワンちゃんは15〜20kgまでは○○○○○円、20〜25kgは○○○○○円・・・・と行った風にして手術にかかる金額を設定しております。


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Q8. 避妊/去勢手術をしたときに役所から補助金がおりるって聞いたんですけど・・・

A8. 市役所、町役場からの補助金の制度はそれぞれの機関によって異なります。ちなみに私のクリニックのある富士市では補助金の制度がございます。(2005年4月末日現在)

近頃は野良犬を見ることが少なくなってきました。野良犬だと思ったら放し飼いにしているケースがあるくらいです。(これも困った問題だと思います が。・・・)身元の無い子犬を皆様で保護収容そして里親探しをするようになったり、また行政の長い努力が実を結んだことによるものと思います。補助金の制 度は犬を飼育する皆様が積極的にペット動物の中性化に取り組んでいただく為の手段の一つだと思っております。


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Q9. 退院したらどんなことに注意したらいいですか〜?糸抜きって有りますか〜?

A9. 退院後は体調が優れない場合が有りますので、自宅内で安静にさせてあげてください。加えて元気食欲ともに良く観察する必要が有ります。もし体調が優れない場合は再度、診察を行う必要が有るかもしれません。

仕方の無いことだと思いますが術後の患部はかゆみを持ってきます。中には縫合部位を大変気にするワンちゃんがいます。必要に応じてエリザベスカラーを装着します。(患部をなめて傷口を開けないように予防します。)

ワンちゃんの性格によってはエリザベスカラーをしても執拗になめ続ける子もいます。場合によっては鎮静剤を投与することも有ります。入院を延長させて病院で観察する場合も有ります。
患部を化膿させない為のお薬(たいていは抗生物質、消炎剤)を必ず飲ませるようにしてください。お薬は基本的には錠剤ですが、希望の剤形を申し出ていただ ければこちらで作製することが出来ます。また特定の抗生物質がお腹に合わず嘔吐や下痢をしてしまうワンちゃんもいますので、そのような症状が見られました らお薬の変更もします。とにかく何か不都合が有りましたら何でも申し出ていただくのが一番です。

退院後は通常は糸抜きの日までは診察が有りません。しかし患部の状態やワンちゃんの体調によって診察が必要となる場合も有ります。指定された来院日にお越し下さい。

通常の糸抜きは術後2週間で行います。糸抜きのときは専用のはさみで糸だけを抜き去りますので数分という短時間で痛みもなく終了します。


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Q10. そうはいってもやっぱり子供を産ませてあげたいんですけど・・・

A10. 一旦、去勢/避妊手術を行いますとそのあとは一生子供を作ることが出来ません。生殖器を取り去ってしまいますので繁殖不可能となります。繁殖の道を残した いケースのメスのワンちゃんにはインプラント療法が有ります。(ホルモン剤のはいったプラスチック上の棒を頚部の皮下に埋め込みます。)避妊効果は1年と も2年ともいいます。インプラントを抜き去ることにより再度、発情回帰が可能をいわれています。

インプラント療法につきましては是か否かが大変論議されていますが、私の持論としてはあまりお勧めしないのが現状です。例外を除きますと手術による避妊が 勧められますので、繁殖を検討される場合は予定の繁殖が終了後に避妊されたら良いかと思います。(繁殖と繁殖の間にインプラントで発情抑制をかけるのはお 勧めしません。)


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最後に・・・

結論としましては猫ちゃん同様、ワンちゃんにも中性化手術が必要かと思います。高齢になってから発症する生殖器系の疾患を良く目にします。そんなときに痛 感するのがもっと早くに避妊・去勢しておけば良かったのに。ということです。生殖器系の異常により起こる病気を予防することにより動物が末永く健康で家族 として過ごされることを期待します。
またペット動物には数多くの遺伝性疾患、また遺伝の可能性の疑われる疾患が有ります。疾患の素因のあるワンちゃんネコちゃんを繁殖に使用することにより、生まれてくる子供たちがまた同様の問題をもしくはそれ以上の問題を持つ可能性が生じます。

適切な繁殖時期を知る為の診察、妊娠してからの胎児の状態を知る為の診察は日常的に行われますが、繁殖に関して是が非かを訪ねるオーナーさんは大変少なく 感じます。我が国のペット繁殖家は欧米に比べて遺伝病性疾患の発症をコントロールすることに対してはまだまだ発展途上と思われます。ペット動物を繁殖する ことは大変大きな責任が生じるのだと認識しなければいけませんね。

写真は・・・

私が現在飼育しているグレイハウンドのDancyです。なんと2歳半になってはじめて発情兆候が見られました。普通は1歳半くらいで認められるそうです。飼い主としては一度子供を産ませたいなあ。と思ってます。
なかなかチャンスが無いのですがここ1年くらいがチャンスなのかもしれません。繁殖が終わったら避妊の手術を使用かと思ってます。
今から自分で執刀出来るかどうかを考えるだけでブルーになります。笑