はじめに
狂犬病は人獣共通感染症(人も動物も同じく感染する病気)であ り、人に感染した場合、現在の医学でも治療方法は全くなく、100%近い確率で死亡してしまいます。狂犬病予防注射は犬のために打つものではなく、人間 (ヒト)が狂犬病にかかることを防ぐために、犬に接種するものです。
そのために犬の登録・狂犬病予防注射は法律(狂犬病予防法)により犬の飼主に義務が課せられています。
現在、日本では昭和31年以後の狂犬病の発生はありません。一方海外では一部の国を除き世界各国で発生しており、国際交流が盛んになっている現在、狂犬病がいつ日本に侵入してくるかはわかりません。
狂犬病 rabies
- 病原体:狂犬病ウイルスrabiesvirus
- 好発年齢:特になし
- 性差:なし
- 分布:世界的に分布(一部の地域を除く)
狂犬病の背景
- 疫学状況
- 病原体・毒素
- 感染経路
- 潜伏期
日本、英国、スカンジナビア半島の国々など一部の地域を除いて、全世界に分布する。キツネ、アライグマ、スカンク、コウモリ、ジャッカルなど、野生動物に感染サイクルが成立している。
ラブドウイルス科の狂犬病ウイルス。
ウイルス粒子は砲弾型でエンベロープをもつ。ゲノムは(-)鎖RNA。
通常は罹患動物による咬傷の部位から、唾液に含まれるウイルスが侵入。ヒトへの感染は終末感染。実験室感染では経気道感染もありうる。
平均30日(2週間〜1、2年)。
診断と治療
- 臨床症状
- 検査所見
- 診断・鑑別診断
- 確定診断
- 鑑別診断
- 治療
- 経過・予後・治療効果判定
- 合併症・続発症とその対応
- 2次感染予防・感染の管理
前駆期(2〜10日間)にはかぜに似た症状のほか、咬傷部位に掻痒感、熱感などの異常感覚がみられる。次の急性期には不安感、恐水症状、興奮性、麻痺、精神錯乱などの神経症状が現れ、2〜7日後に昏睡期に至り、呼吸障害により死亡する。
急性期の神経症状がみられずに麻痺が全身に拡がる例もあり(麻痺型)、特にコウモリに咬まれて発病したケースに多く、死亡までの病期は比較的長い。
抗ウイルス抗体の検出(脳脊髄液、血清)。蛍光抗体法(FA)によるウイルス抗原の検出(皮膚、角膜)。
脳脊髄液や血清中抗ウイルス抗体の検出、皮膚、角膜などからウイルス抗原の検出。
死後の診断では脳組織中のウイルス抗原の検出、あるいはウイルスの分離。
恐水症状などの定型的な症状を示さないケースがしばしばあり、症状や経過だけでは種々の神経疾患との鑑別が困難で、原因不明の神経疾患として死亡した患者の中に、死後の病理組織学的検査により狂犬病と診断されることがある。
発病後の有効な治療法はない。
罹患動物に咬まれた場合の治療として、ワクチン接種および抗ウイルス抗体の投与により発症阻止が図られる。
発病後数日以内にほぼ100%が死亡する。
最終的には呼吸麻痺。
通常はヒトからヒトへの感染はない(終末感染)。
イヌ・ネコへのワクチン接種や輸入動物の検疫の強化。
厚生労働省のHPより引用させていただきました。
http://www.forth.go.jp/mhlw/animal/page_i/i04.html狂犬病予防注射の概要
ここでは動物病院で受ける一般的な個別注射について説明致します。
- 受付/簡単な問診
- 健康状態のチェック/制限事項
- 重篤な病気にかかっていること。
- 以前の狂犬病ワクチン、または他のワクチン投与により重大な副作用を呈したもの。
- 発熱・咳又は下痢などの症状が有る場合。
- 病気の治療を継続しているもの。
- 発情、妊娠の恐れが有るもの。
- 高齢のもの。
- 重度の皮膚疾患が有るもの。
- 明らかな栄養障害が有るもの。
- 他の薬剤投与、導入または移動後間がないもの。
- 飼い主の制止によっても沈静化が認められず、極度の興奮状態に有るもの。
- 1年以内にてんかんを起こしたことがあるもの。
- 注射
- 注射後の注意事項
- 市町村への報告
自 宅に郵送されたはがきを提出していただきます。差し出しは所定の市町村からです。はがきには集合注射の時間/会場の場所/注射にかかる金額が記入してある はずです。また個別注射を行う動物病院名が記入されている場合も有ります。また簡単な健康チェックを行う欄が記入してある場合も有ります。
はがきを忘れた場合、所定の市町村の係に問い合わせる必要が生じ、受付等の時間が遅れる恐れが有ります。はがきは必ずお持ちください。

生後91日を過ぎた健康なワンちゃんで以下の制限事項に該当しない場合に狂犬病予防注射を接種することが出来ます。
加えて以下の制限事項は注射の時期が検討される場合が有ります。
予防注射ですので原則的には健康なワンちゃんしか接種出来ません。
ま た動物病院で接種を受ける混合ワクチンと同時接種が不可能となります。狂犬病予防接種をする場合は前回の生ワクチン(混合ワクチン)接種から1ヶ月以上経 過していることが必要となります。また狂犬病予防注射(不活化ワクチン)を注射してから次のワクチンを接種する場合は1週間以上の間隔を開ける必要が有り ます。
健康状態に問題が無ければ狂犬病のワクチンの接種を行います。
狂犬病ワクチンを1mlワンちゃんの皮下、又は筋肉内に注射します。注射に慣れずにとても嫌がるワンちゃんが見受けられます。安全に注射する為に、飼い主さんが責任を持って保定してください。(きちんと保定出来る人が連れてきてください。)
注射当日から2〜3日は安静に努めて下さい。激しい運動、交配、入浴やシャンプーは避けてください。
集合注射、ほとんどの個別注射では注射行為と同時に市町村への報告が同時に行われます。登録が済んでいない新規ワンちゃんの場合は登録も同時に行われます。(登録は1生に1度しか行いません。)
登録が完了すると鑑札が渡されます。(丸い形の金属製のプレート。)

また注射が完了すると注射済票という角張った金属製プレートが渡されます。

これらが所定の市町村への手続きが終了したという証明となります。
しかし例外として、病院で注射の証明書を発行され飼い主さんが別途手続きを行う必要もあるケースもあります。(動物病院では注射行為だけを行い手続きは行うことが出来ない。)面倒ですが必ず所定の市町村の機関に出向き注射の手続きを受ける様にしてください。
なぜ狂犬病予防?
よく狂犬病予防注射に連れてこられた飼い主さんよりこのような質問を頂きます。
「家の犬は室内飼育だから注射は必要ないでしょうか?狂犬病は既に日本では撲滅されているとき聞きますがそれでも予防する必要が有りますか?」
これらの問いかけに関しては以下の記事がその問題の深刻さを象徴していると考えます。
- 北海道新聞(2002年4月4日)
「狂犬病は、犬やキツネ、猫などの動物の唾液から感染するウィルス性の感染症で、人が発症すると死亡率はほぼ100%。日本では1956年以来発生していないが、ロシアを含め多くの国では発生が続いている。」
「道内の港に寄港するロシア船から犬が検疫を受けずに上陸している例があることから、道は国と協力して本年度、港周辺の(野良)犬を対象に、狂犬病の予防接種を受けているかどうかの抗体検査を行う。」
「道 はこれまで、寄港するロシア船に、ロシア語のチラシやテープで犬を上陸させないよう呼びかけてきたが、こうした啓発活動も強化する。ロシア船の乗組員は、 寄港すると犬を放し飼いにするケースが目立ち、出航するまでに犬が戻らず、置き去りにしている例もある。数年前には、放し飼いのロシアの犬に日本人がかま れる事故も起きている。」
なんだかぞっとする現実です。こういった現状が認められる以上は狂犬病がいつ日本に上陸するか分からないと言っても過言ではないはずです。
更にこういった情報も有るようです。
1988 年のフィンランドのように流氷を渡っての動物の侵入や、輸入品に紛れ込んでくる小型のげっ歯類による場合も考えられます。(源教授)。(流氷とは北のほう から氷が流れてくるのではなく海の表面が凍ってできたもので、一面に氷が張るとその上を歩いて来られるようです。)
知らない間に日本に狂犬病が上陸している可能性だって否定は出来ません。
現在日本に狂犬病がはいってきたら・・・
狂 犬病の大流行は、70%以上が抗体を持つ集団ではないとされています。登録されている犬の80%がワクチンを接種していますが、登録していない犬を含める と50%ぐらいと試算されています。この状態で狂犬病が発生したら、大流行の可能性があります。(登録していない犬は頭数が把握出来ないので、あくまで予 測数です。)
BSEが日本で発生した時と比較して、更に大きな混乱とパニックを招くと予測されます。
よって日本で飼育されている犬の頭数をきちんと把握する為に、市町村への登録が必要なのと、狂犬病予防注射の徹底が必要な状況と考えられます。
http://www.tarowan.com/rabies.html
記事の一部は上記のサイト(TARO’S CONNECTIONさん)より引用させていただきました。
最後に
狂犬病は現在、撲滅され危険性の少ない病気という認識が強いかと思います。しかし危険性が少ないという認識がかえって日本に大混乱を招きかねない状況を生み出しかねません。
- 日本に寄港する外国船から検疫を受けていない犬が上陸しています。
- 国際的な物流が盛んになり、輸入品に紛れ込んだねずみなどによりウイルスが持ち込まれる可能性があります。
- 猫、アライグマ、キツネ、スカンクも平成12年より検疫を受けるようになりました。しかしそれ以前に輸入されたものは検疫を受けていません。フェレット、ハムスター、マングースやこうもりは現在も検疫の対象にはなっていません。(すべての哺乳動物が感染します。)
- 流氷に乗って動物が入ってくる可能性があります。
飼育環境に関係なく全ての犬に対して狂犬病の予防注射が必要です。ただし犬の健康状態によっては注射接種に制限が加えられることが有りますので、御心配な場合は動物病院で狂犬病予防注射適用が可能かどうかを尋ねられることをお勧めします。
健康状態が芳しくない場合は、狂犬病予防注射の注射猶予証(狂犬病予防注射を打たなくても良いという証明書)も発行出来ます。
現在、狂犬病の予防注射比率が50%程度、深刻な状況を生み出す可能性が続いているものの未だその比率が上がってきません。(一度狂犬病が日本に上陸したら予防の必要性が痛感出来るのでは・・・)なんて話が出ているかどうかは別ですが、そのくらい状況は深刻のようです。