とりい動物クリニック 静岡県富士市の動物病院

静岡県富士市南松野59 TEL 0545-56-3030 FAX 0545-56-3033

Topics

食道内異物の犬の1例(釣り針を飲み込んで食道に刺さっちゃった!)

はじめに

以前に猫ちゃんの食道内異物(釣り針)摘出の紹介をさせて頂きました。今回も同様なのですが、ワンちゃんの釣り針による食道内異物で以前の症例に比較して摘出に苦慮しました。(以前は比較的容易に摘出出来たのですが、今回は強く食道粘膜面に食い込んでいました。)今回、新たに見直した摘出の方法を紹介しながら、症例紹介をさせて頂きます。

症例

身体検査所見

体温39.7℃、心拍数104回/分
体重5.23kg、診察時には元気がまったくないと言った様子ではありませんでした。釣り針が刺さっているというのに、なんと前日の食事は食べた様です。(すごい〜)?
その場でレントゲン検査を行いました。

レントゲン検査所見

横向きの写真です。脊椎の下、気管の上の食道に該当する部分に白い物体が観察されます。食道内の異物と予測されます。食道の炎症もあるのか軽度の食道内ガスも認められます。

写真1(No.055)
写真1(No.055)

仰向けの写真です。この方向ですと、釣り針の形がはっきりしますよね。

写真2(No.056)
写真2(No.056)

この段階で、釣り針による食道内異物は間違いないと判断し、内視鏡下での異物摘出を選択しました。
加えて、腹部のレントゲン検査も行ないましたが、胃内には異常な陰影は認めず、異物の存在は食道のみと考えました。(とはいっても胃の中も同時に内視鏡検査は行なうのですけどね・・・)

上部消化管内視鏡検査

全身麻酔下にて内視鏡検査と異物摘出処置をおこないました。
内視鏡で針を確認したところです。食道の下の部分に銀色の物体が見えますよね。

写真3(NO.709)
写真3(NO.709)

まずはこの物体を把持鉗子で把持します。
実はつかんでいるのは針の根元の方です。よって針先は右側の食道粘膜面に刺さっています。よってこれを強く引っ張ってしまうと、きれいに抜けません。強引に引くと食道粘膜面を大きく障害する恐れがあります。出来るだけ針先をつかもうと努力したのですが、強く引くと滑って根元の部分に戻ってきてしまいます。

写真4(N0.710)
写真4(N0.710)

写真5(No.711)
写真5(No.711)

そこで方法を少し変更して摘出しました。

大変申し訳ないのですが・・・

その処置の模様はきちんと画面を保存していなかったので、行なった方法を紹介しますね。

オーバーチューブを使った針の摘出方法

まずは普段使用している内視鏡です。直径が7mmあります。

写真6(No.067)
写真6(No.067)

内視鏡の中の鉗子チャンネルは直径が2mmあります。よって鉗子サイズが2mmまでのものなら内視鏡の中を通して使用出来ます。

写真7(No.068)
写真7(No.068)

内視鏡の画面を観察しながらまずは把持鉗子で針を把持します。これが先ほどの写真4と写真5で行なったものと同じ処置です。

写真8(No.070)
写真8(No.070)

今度は内視鏡の周囲からオーバーチューブを挿入していきます。
内視鏡の周りに見られる透明のチューブです。黒い内視鏡を覆い隠してしまいます。

写真9(No.072)
写真9(No.072)

きちんと把持をしたら、さらにオーバーチューブを進めます。そうすると針先にオーバーチューブが引っかかる状態になります。
青いタオルを食道粘膜面に見立てるとこのような感じです。

写真10(No.074)
写真10(No.074)

その状態にして、オーバーチューブと内視鏡を一緒に深く押し込みます。そうすると食道粘膜面に刺さっていた針が抜けます。食道粘膜面の損傷が少なく摘出することが出来ます。

写真11(No.075)
写真11(No.075)

角度を変えるとこんな感じで抜けたことになります。この状態で抜くことはせずにそのまま胃の中まで移動させます。

写真12(No.077)
写真12(No.077)

胃の中で鉗子を操作して針の先端をオーバーチューブの中に収納します。
そうすれば消化管を損傷することなく針の摘出が出来ることになります。

写真13(No.078)
写真13(No.078)

角度を変えるとこんな感じです。針先がオーバーチューブの中に収納されています。
今回は大丈夫だったのですが、摘出に際しては出来るだけ太いオーバーチューブを使用します。しかしながら収納出来ないくらいに大きな針は、針先が引っかからない様に持ち替えて、送気をしながら注意深く摘出するか、胃の中に移動させた状態で開腹して摘出することになるかも知れません。

写真14(No.079)
写真14(No.079)

写真の右上に見られます小さなピンク色の点が、穿孔部位です。
それほど大きな外傷には見えませんが、食道穿孔により、膿胸などの合併症を引き起こす場合もあります。抗生物質療法をしばらく継続しますが、注意か必要です。

写真15(No.714)
写真15(No.714)

これが実際に摘出された釣り針です。

写真16(No.053)
写真16(No.053)

最後に

今回は犬で見られた釣り針による食道内異物の摘出を紹介させて頂きました。
お散歩で普段と違うコースを選び、そういったところで異物を摂取する危険性は高いと思います。
釣り人のマナーにも大変問題はありますので、ゴミを捨てない啓蒙活動が必要かと思いますが、最終的にはペットオーナーが注意を払うことが最も重要になります。(誰が捨てたのかはまず分かりませんから。)
非常に危険な異物を摂取することがありますから、ご注意を!